農業法人設立にあたっての留意事項編

個人農家の資産や負債の引継ぎ方法

農業法人化に伴う資産や負債の引継ぎ方法や会計・税務上の取り扱い等留意することが多くある。大まかな留意事項を紹介する。

既存の農家の資産の取扱

法人を設立する場合、個別農家の資産を整理し、必要なものを法人に引き継ぐ必要がある。

引き継ぐ方法としては、貸付や売買があり、農業用の建物・構築物等は貸付一般的である。また、農業機械・農機具等は売買が一般的である。

主な資産の引き継ぎ方法と留意点

主な個人農家の農業関係の不動産・動産の引継ぎの例であるが、不動産については、引き継ぐ数は多くないが、動産の農業機械や農機具についてはほとんどの個人農家が所有していたため数は多い。また、農業法人へ引き継いで効果的に使用できるものとそうでないものがある。

農業機械の年式や稼働時間を考慮し、農業法人へ引き継いでいいものだけを選定して行うことが大事である。そこで、不要になった農業機械・農機具をそのまま離農した個人農家で管理するのは無理であるため、処分方法についても検討する必要がある。

地域の中古農業機械・不動農業機械の型式や稼働時間を調査し、農業機械の買取業者である、農機具買取ドットコム農機具買取王農機くん、等の一括見積で比較検討して売買が可能であれば個人農家との調整を行い、農機具の処分整理を行う。

これらにより、農業法人へ引き継ぐ農業機械と今回をきっかけに農業機械の処分整理を行い、新しい農業法人の経営安定に繋いでいくことが大事である。

農業法人設立の流れについて

農業法人設立の流れ

ここでは、個人経営農業や集落営農組織が農業法人を設立する場合について紹介します。農業法人とは、今まで紹介したとおり農業を営む法人の総称で、会社法に基づく株式会社や合名会社、農業協同組合法に基づく農事組合法人に大別されるものです。その設立に当たっては、株式会社や合名会社として設立する場合は、一般的な会社の設立と手続きは同じになります。

具体的な項目(農林水産省HP資料より)

1)事前準備

・基本的事項(組織形態、資本金、事業内容、資産の引き継ぎ)の決定

・法務局で同一本店所在地に同一の商号の会社があるかどうか調査

2)発起人会の開催

・基本的事項を決議し、決定事項は発起人会議録に記載し、発起人全員が捺印

3)定款の作成

・目的、商号、本店所在地、出資財産の価額又は最低額、発起人の氏名又は名称及び住所といった絶対的記載事項や発行可能株式総数等の相対的事項を規定

※農地を取得する株式会社の場合は、株式の譲渡制限の定めが必要

4)定款の認証

・公証人による定款の認証

5)出資の履行

・発起人は、設立時発行株式の引き受け後遅滞なく、当該設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払込、又は金銭以外の財産全を給付

6)設立時役員等の選任

・発起人は、出資の履行完了後遅滞なく、設立時取締役など設立時役員等を選任

・設立時役員等の選任は、発起人の議決権の過半数をもって決定

7)設立時取締役の調査

・設立時取締役は、出資の履行の完了や設立手続きの法令又は定款の違反の有無等を調査

8)設立登記

・設立登記は、設立時取締役の調査終了日又は発起人が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内に行う。

9)諸官庁への届け出

・登記簿謄本と代表取締役等の印鑑証明を取得し、必要な書類と共に諸官庁へ届出

※税務署、都道府県税事務所、市町村役場(税務・国民年金)、労働基準監督署(雇用保険、労災保険)、社会保険事務所(健康保険、厚生年金)など

まとめ

農業法人設立では、かなりの項目を一つ一つ解決しないとできないと改めて思うものである。これを今後一つづつ解決していかなければならない。

農業法人化のメリット②

農業法人化のメリット②では、地域農業としてのメリットと制度面でのメリットを紹介します。

2、地域農業としてのメリット

新規就農の受け皿

・農業法人に就農することにより、初期負担なく経営能力、農業技術を習得

「新規就農者は、農業をやったことがないため当然経営能力や農業技術を持っていない。また、個人で初めから農業を行うには農業機械などの購入費用も必要になる。このため、新規就農者向けの支援制度はあるものの相当の覚悟が必要になる。一方、農業法人に新規参入すれば、日々の農作業の中で農業技術の習得や法人所有の機械で機械の取扱技術の習得も可能である。それも初期投資はなく、逆に安定した収入も期待できる。

農業技術など習得後に自ら農業法人経営も可能であり、そういったケースも少なくない。」

3、制度面でのメリット

税制

・役員報酬を給与所得とすることによる節税

(役員報酬は法人税において損金算入が可能。また、所得税において役員が受け取った報酬は給与所得控除の対象となる。)

「個人の農業経営の場合の所得は、農産物の販売額やその他の収入金額から、農業生産・販売に係る必要経費を差引いた額。農業法人の所得は、収入金額から農産物の生産・販売などに係る必要経費と役員報酬を差引いた額になります。よって、農業法人の場合、必要経費+役員報酬も差引くことができるので個人経営より農業法人の方が税の面で有利である。」

・欠損金の10年間繰越控除(青色申告をしている個人事業主は3年間)

融資限度額の拡大

・農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)の貸付限度額

〇個人3億円(複数部門経営は6億円)

〇法人10億円(民間金融機関との協調融資の状況に応じ30億円)

「スーパーL資金は、個人、農業法人の認定農業者に対して日本政策金融公庫が融資する規模拡大やその他の農業経営改善を図る目的の制度資金である。農業法人の場合は、貸付限度額が個人に比べて3倍以上であり、農業法人には優遇された制度である。」

農業法人化のメリット①

先に農業法人の種類など紹介しましたが、今回は農業法人化のメリットについて農林水産省HPの資料より紹介します。

農業法人経営の三のメリット

農業法人経営のメリットは大きく以下の三つがあげられます。

  1. 経営上のメリット
  2. 地域農業としてのメリット
  3. 制度面でのメリット

ここでは、1.経営上のメリットについて紹介します。

  1. 経営上のメリット

 経営管理能力の向上

・経営責任に対する自覚を促し、経営者としての意識改革を促進

「家族経営であれば、役職などの区分もありませんが、法人経営では、代表者・役員など役職の選任があり、それぞれ与えられた業務を行うことになり責任もあります。また、立ち上げた農業法人の運営も考えながら進めなければなりませんので、経営に対する意識を強く持つことになります。」

・家計と経営が分離され、経営管理が徹底(ドンブリ勘定からの脱却)

「家族経営では、すべてが一つの会計で運営されている。例えへば、農業以外の収入があればそれも家族経営のなかでは収入となり、また農業以外の支出もそのようになりますが、法人経営では農業に特化した収入・支出になります。農業経営の優劣がはっきりと数字で表れますので、経営管理を徹底することができます。」

 対外信用力の向上

・財務諸表の作成の義務化により、金融機関や取引先からの信用が増す

「法人経営では財務諸表を毎年作成する義務があります。これにより経営内容の優劣がわかりますので、規模拡大に必要な資金調達を行う時の金融機関の審査に影響します。また、農産物の出荷取引を行う時にも取引先として認めてもらえるかに影響してきます。」

 経営発展の可能性の拡大

・幅広い人材(従業員)の確保により、経営の多角化など事業展開の可能性が広がり、経営の発展が期待出る

「家族経営では、農繁期の一時的な雇用はよくありますが、法人経営の場合は、福利厚生がしっかりしていることと長期雇用が期待できますので、求人に対する応募者もいます。また、応募者の中には優れた人材もいて経営について優秀な人材や新規事業の展開に優秀な人材などの確保がとても有利になります。法人経営の発展も期待できます。」

※農業法人化は、家族経営では限界がある規模拡大や新規事業の展開など経営上のメリットがあることがわかりました。

 

 

農業法人とは

農業法人について、「公益社団法人 日本農業法人協会」の掲載内容を参考に紹介します。

農業法人とは

「農業法人」とは、法人形態によって農業を営む法人の総称を言う。

学校法人や医療法人等の法的に定められた名称とは異なり、農業を営む法人に対し任意で使用されることになっています。

法人形態は「会社法人」と「農事組合法人」とに分けられます。

「会社法人」とは、株式会社など、一般的な法人として農業を営むのが会社法人。ただし、農業を営むためには、農地法の設立要件を満たした構成員が1人いることや、構成員や役員に60日以上の農作業従事義務があります。主に家族経営で農業を行い、法人化する場合に会社法人を設立する。

「農事組合法人」とは、農業生産についての協業を図ることや、組合員の共同の利益を増進することを目的として設立する法人のこと。農業に関する共同利用施設の設置や農作業の共同化に関する事業、農業の経営の事業を行うことができることになっています。発起人には、3人以上の農民が必要で、農民や農業協同組合などが組合員なり、経営を行い、主に農民の仲間や集落営農を法人化する場合は、農事組合法人が設立される。

この農業法人のなかで、農地法第2条第3項の要件に適合し、”農業経営を行うために農地を取得できる”農業法人のことを「農地所有適格法人」と言う。

農地所有適格法人の要件は次の4つである。

  • 法人形態要件
  • 事業要件
  • 議決権要件
  • 役員要件

法人が農業を営むにあたり、農地を所有(売買)しようとする場合は、必ず上記の要件を満たす必要です。

ただし、農地を利用しない農業を営む法人や、農地を借りて農業を営む法人は、必ずしも農地所有適格法人の要件を満たす必要はありません。

法人化する場合、どのタイプの法人を選ぶのか、それぞれの法人形態の特色や自らの経営展望に照らして選択する必要があります。

当地域での農業法人は

現在の当地域の農業形態を考慮して、目指すべき農業法人は「農事組合法人」が的確ではないかと思っています。ただし、今後の地域の農業者の意見などが十分反映されながら検討しなければならないと思っています。

今の農業の現状

今の農業の現状は、農家の減少、就業構造の変化、混住化や農産物価格の低迷、担い手不足、鳥獣被害などで耕作放棄地が拡大している状況にあります。。

耕作放棄地の拡大による地域が衰退

この耕作放棄地の拡大で地域が衰退しています。主な衰退の要因は以下のようなことが考えられます。

  1. 農業への影響:雑草、病害虫の多発生、鳥獣被害、生産コストの増大
  2. 地域の衰退:地域コミュニティの変容、人口減少、地位価値の低下
  3. 居住地区への悪影響:自然景観の喪失、野生鳥獣の出没

これらが更に集落機能の低下にもつながっていると思われます。たとへば、地域コミュニティの希薄化、集落活動への参加意識の低下、農地・水利等農業関連施設の維持・管理が困難、人口流出、農業生産力の低下などあらゆる分野へ波及している状況です。

耕作放棄地解消のための施策

このため国では、耕作放棄地の発生要因の解消のためいろいろな施策を推し進めています。その一つが、担い手への農地集積を行い耕作放棄地の解消を加速化し、法人経営、大規模家族経営、集落営農、企業などの多様な担い手による農地のフル活用を目指すことを進めています。

この中の法人経営、大規模家族経営、集落営農などの組織づくりも積極的に推し進めていますが、補助事業の活用も今では農業法人が最優先で採択される状況になっています。

たとへば農業法人が、新たな作物の導入に向けたトラクターの購入についても購入費の1/2が国から補助金として交付される仕組みになっていて、そもそも農業機械の導入補助金は農業法人などしか受けられない(個人の農家は対象外)国の制度になっています。

最後に

このようなことから国の政策にのって農業を行うには、農業法人などを設立した方が有利に進められるようになっていることがわかります。